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最近の児童文学の仕事,いろいろ。

2016.08.01 (月)

8月になりました。
大学の授業や,店のイベントなどで,
春からなんとなく慌ただしかったのですが,
ここにきて,とりくんできた児童文学関係の仕事が,
いろいろな形でまとまってきたので,
少し紹介させていただきたいと思います。

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まずは,こちらの『絵本ものがたりFIND』(朝倉書店)。
私も,
「現代児童文学作品の絵本化をめぐって
ー絵本になった「八郎」「モモちゃん」「ウーフ」たちー」という論を,
書かせていただきました。

この本は,今年の春に刊行されたのですが,
この「児童文学作品の絵本化」というテーマで
いろいろ調べていたのは去年のことです。
この論自体は,10枚くらいの小論ではありますが,
調べていく中で,私自身,「物語」と「絵本」をめぐって,
いろいろな発見がありました。
「児童文学作品の絵本化」は実際にはいろいろと複雑なケースがあるのですが,
ここで調べたことを,ときどき大学の授業や,いろいろな研究会で話すと,
たとえば,先日柏でも原画展が開催された絵本『八郎』が,
もともとは「物語」としても書かれていたことなどは,
意外に知られていないことがわかりました。
また,「くまの子ウーフ」の話を,
絵本として読んできた読者もいるらしい…とか。

私自身は,まず「児童文学」として読んできたこれらの作品が,
「絵本」になることで,魅力が増したり,逆に狭まったり……。
改めて,「絵本」には「絵本」の,
「物語」には「物語」の意義があることを考えることができた仕事でした。

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次に,私自身が何かを書いたわけではありませんが,
「編集」というかたちで関わらせていただいたシリーズが,
ようやく刊行されました。
それが,こちらの「文学のピースウォーク」シリーズ(新日本出版社)です。
このシリーズは,もう10年くらい前に出された,
「おはなしのピースウォーク」という全6巻の短編集に続く,
全6巻の長編のシリーズ。
シリーズタイトルからもわかる通り,戦争をはじめとする社会問題を,
「文学」のテーマとして表現していこうという試みで,
日本児童文学者協会の「新しい戦争児童文学」委員会が中心となって,
作品募集をしたり,合評会をしたりしながら,
本にするべく編集を重ねてきたシリーズなのです。
私も,このメンバーのひとりとして,関わらせていただきました。

この「新しい戦争児童文学」委員会をたちあげたのは,
今は亡き古田足日さん。
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その古田さんの遺志を継いで,この委員会のメンバーと,
新日本出版社とで,作り上げた6巻のラインナップは,
以下の通りです。

①『少年たちの戦場』
  那須正幹/作 はたこうしろう/絵  古処誠二/解説
②『すべては平和のために』
  濱野京子/作 白井裕子/絵 丸井春/解説
③『大久野島からのバトン』
  今関信子/作 ひろかわさえこ/絵  渡辺賢二/解説
④『金色の流れの中で』
  中村真里子/作 今日マチ子/絵 落合恵子/解説
⑤『幽霊少年シャン』
  高橋うらら/作 黒須高嶺/絵 小澤俊夫/解説
⑥『翼もつ者』
 みおちづる/作 川浦良枝/絵 私市保彦/解説

作家さんはもちろん,画家さん,解説もふくめ,
他にはないラインナップだと思います。
それぞれのくわしい内容はこちらを見ていただければと思いますが,
https://www.shinnihon-net.co.jp/child/series/s/%E6%96%87%E5%AD%A6%E3%81%AE%E3%83%94%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%AF/

とにかく,このシリーズを作るために,
みんなで作品を読み合い,作者も何度も手を入れました。
「戦争」というと,いわゆる日本の被害を体験的に語るような,
そういうイメージがありますが(もちろんそれも意味はあることですが)
古田さんはじめこの委員会のメンバーは,
そうした既成のテーマ,既成の方法ではなく,
戦争や平和について,より広い視野,そして,
よりユニークな方法で,深くじっくり考えられる作品を追求しました。

また,戦争の本というと,「暗い,怖い…」という雰囲気になりがちですが,
作品の意義をより豊かに表現してくれる画家さんを,
みんなで考え,お願いしました。
たとえば,楽しい絵本で知られるはたこうしろうさん,
漫画家の今日マチ子さん…。
また,ハックルベリーブックスでも原画展をさせていただいた
赤ちゃん絵本でおなじみひろかわさえこさんのかわいいウサギの絵…。
とくに,6巻目の川浦良枝さんは,「しばわんこ」の作家さん。
川浦さんも,ハックルベリーブックスで原画展をしていただいたときに
児童文学への造詣の深さを知り,
いつか,児童文学の絵を手がけてもらいたいと思ってきました。
それが,今回,美しい羽根の絵で,実現しました。
「しばわんこ」の川浦さんの新境地だと思います。

さらに,解説も,そうそうたる方々に書いていただきました。
そして,全体の装丁は,ブックデザイナーの中嶋香織さん。
これまた,「戦争もの」のイメージを覆す,
たいへん魅力的な本に仕上げてくださっています。

いずれまた,ハックルベリーブックスでも,
何かフェアやイベントなどをしたいと思っていますが,
とにかく,このようなシリーズに関わる中で,
私自身も,たくさんのことを学びました。

世界は,なんとなく不寛容になり,
強さや冨が求められ,格差や差別も進んでいるようなこのごろ。
でも,文学者は文学者にできるかたちで,
こうして集まり,協力し,つながりの中で本を作っていることを,
知っていただきたいと思っています。

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やはり「編集」という形で関わらせていただいたのが,こちら,
雑誌『日本児童文学』2016.7-8月号です。
(表紙がなんと恐竜絵本でおなじみ黒川みつひろさんです!)
この号は,「「地域」再生と児童文学」という特集で,
この特集のきっかけは,私がここ柏で店を始めてからの経験と,
2年前の夏に訪れた水俣での見聞でした。
特集の最初に1ページほどで,特集意図など書かせていただきましたが,
全体に,たいへんおもしろい論が集まっていますので,
ぜひお読みいただければと思います。
児童文学も,「地域」作りということと,
けして無縁ではないことが,わかっていただけると思います。

そして,最後にいちばん最新の仕事が,
『子どもの本棚』2016.8月号。
この号は,「"文学"が伝えられること―物語の持つちからー」という特集ですが,
この中で,私も,
「〈重ねて行く〉苦しさと覚悟-文学で描く戦争ー」という評論を
書かせていただきました。
そんなに長い論ではありませんが,
最近読んで心ひかれた作品を中心に,
そしてまた,やはり自分の足場である柏や千葉ということも考えて,
書かせていただきました。

これらの雑誌も,ハックルベリーブックスにありますので,
ぜひ,手に取ってごらんいただければと思います。