記事一覧

名作はやはり名作! 「ニルスのふしぎな旅」

2013.09.19 (木)

ファイル 169-1.jpg

現在,原画展開催中の「ニルスが出会った物語」は,
もともとこちらの長ーい物語『ニルスのふしぎな旅』の中から,
6つのお話を選んで,絵物語にしたものです。

もともとの『ニルスのふしぎな旅』は,
今から100年くらい前の1906年にスウェーデンで書かれた
まさに古典的名作のひとつ。
私も,前に,読んだことはありましたが,
このたび,もういちど菱木さんの訳で全部を読み返して,
あらためてびっくり!
まさに,「今」に通じるテーマが,たくさんたくさん
見つかるのです。「ニルス」おそるべし。

ちょうど100年前のスウェーデンは,国が発展していく時代。
スウェーデンの子どもたちに,
国の地理を学べる物語をと頼まれて,
ラ―ゲルレ―ヴはこの作品を書きました。
小人にされてしまったニルスは,
がちょうのモルテンの背中にのって,
ガンの群れとともに,スウェーデンじゅうを旅してまわります。
そのニルスの物語と、各地に伝わるいろいろな伝承,
また,鳥や動物たちの生活,人間たちの営み,
それらが,ところどころで交差しながら,
実に重層的な世界が語られているのです。

これはもう,ニルスの冒険なんていう単純なものではありません。
自然のすばらしさと産業の必要性,
動物たちのいのちと人間の生活,
簡単に折り合えない複雑な関係を,
わたしたちはどう考えていくのか…。
そのことを,100年も前に,
しかも,近代化の輝き真っ只中の中で,
作者は,考えながら,迷いながら,
子どもたちに問いかけながら,
この長い物語を書いていったのだと思います。

ファイル 169-2.jpg

たとえば,「ニルスが出会った物語」の中の『クマと製鉄所』では
自然の中のクマたちのくらしと,
製鉄業のすばらしさと,その両方が並べられて,
単純に答は出されていません。

ファイル 169-3.jpg

こちらの『ワシのゴルゴ』は,
ニルスが「アッカ母さん」とよぶガンのリーダーが
(そう,アッカはかっこいいおばさん鳥です)
ワシのひなゴルゴを育てる話。
やがてそれぞれの生き方を貫き,
アッカとゴルゴは決別していきます。
この適度な距離感…。
(『ニルスのふしぎな旅』では,
ゴルゴとアッカのその後も書かれています)

ともかく,さまざまなエピソードの中に,
自然と人間,他者とのかかわりなど,さまざまなテーマが,
豊かに,緻密に,織り込まれているのです。

ファイル 169-4.jpg

この夏休みは,今から130年くらい前に描かれた
マーク・トウェインの『ハックルベリー・フィンの冒険』を
ミシシッピの旅の中で読み返しました。

そして,今,『ニルス』を
スウェーデンの風景を描いた美しい原画の中で読み返し,
つくづく,古典的名作はやはり名作なのだと感じています。
それは,その時代の価値観や流行りすたりだけに流されず,
高い視線と低い視線とを合わせ持ち,
過去と未来と両方を見すえる問いがちゃんとあるということです。

この原画展が,
そういう名作を読み直すきっかけになればいいなあと,
あらためて思いました。

原画展も,5日目。
平日は,本を読みながら,ゆっくりごらんになれます。
ぜひ,どうぞ。